共同の口座にするか、別財布のままにするか
共同口座、夫婦別財布、生活費だけ定額を入れる折衷。どれを選ぶかは価値観の問題ではなく、運用の問題です。記録の手間と抜けやすさが、構造によってはっきり変わります。
この話題は、たいてい道徳の話として持ち出されます。全部一緒にするのが信頼のあかしで、別々のままなのは距離がある、というような。実際に暮らしてみると、そういう話ではありません。どの口座からどの支払いが出るかという配管の話です。
配管の形が決まると、記録の手間と、抜けやすい場所が自動的に決まります。だから先に決めておく価値があります。あとから変えることもできますが、変えた月の帳簿は必ず一度ぐちゃぐちゃになります。
三つの形
全部入れる
二人の収入を一つの口座に集め、家の支払いも個人の支払いもそこから出す形です。記録の観点でいえば、いちばん楽です。見る口座が一つで、明細が一本にまとまるので、締め日のあとの照合も一度で済みます。
弱いのは、個人の裁量が残らないところです。相手に説明したくない買い物が一つもない、という状態を長く続けられる人は多くありません。説明したくない支出が出てきたとき、それは口座の外に出ます。現金で払われたり、別のカードが作られたりして、帳簿の外側に小さな流れができます。
それぞれの財布のまま
収入も支払いも別々にして、家の支払いだけをその都度分ける形です。個人の自由度はいちばん高い。
記録の負担は逆にいちばん重くなります。同じ支出を二人が別々に書く可能性があり、立て替えと精算が発生し、精算そのものをどう書くかという問題が新しく生まれます。片方が食材を買い、あとで半額を受け取ったとき、二人の帳簿にはそれぞれ何が残るのか。ここを決めていないと、家の合計はどうやっても出ません。
生活費だけを共同に入れる
実際にいちばん多いのはこの形です。家賃、光熱費、食費、子どもの費用を出す共同の口座を作り、そこに二人が毎月お金を入れる。残りは各自の財布のままにしておく。
この形の良いところは、家計簿が追うべき範囲がはっきりすることです。共同口座から出たものが家の支出で、そこから外れたものは個人の支出。境界が口座で引かれているので、費目で悩む必要がありません。
入れ方をどう決めるか
折衷を選んだ場合、次に決めるのは入れ方です。ここには二つのやり方があって、性質がかなり違います。
- 定額を入れる。毎月同じ額を二人が入れる形です。金額が固定なので、給料日の翌日に自動振替にしておけば、以後は何もしなくて済みます。
- 割合で入れる。収入に比を取って入れる形です。収入差が大きい家庭や、片方の収入が変動する家庭ではこちらのほうが無理がありません。
どちらを選ぶかより先に効くのは、入れる額が実際の生活費に足りているかどうかです。足りていないと、月の後半で誰かが自分の財布から出すことになり、その分は共同の帳簿に載りません。載らない支出が毎月あると、家の生活費は実際より小さく見え続けます。
だから入れる額は、直感で決めるより、二、三か月ぶんの実績を見てから決めるほうが安定します。それまでは多めに入れておいて、余ったぶんは口座に置いたままにしておく。余りが積み上がってきたら、そのぶんが年に一度の支出、たとえば火災保険や車検や帰省の費用の置き場所になります。
構造ごとに、どこが抜けるか
どの形を選んでも、抜ける場所はあります。あらかじめ知っておくと、照合のときに探す場所が絞れます。
全部入れる形で抜けるのは、口座の外に出た現金です。ATM から引き出した額は帳簿に一行残りますが、それが何に使われたかは残りません。引き出しを記録の対象にするのか、使ったときに書くのかを決めておかないと、現金の分だけ二重に数えたり、まったく数えなかったりします。
別財布の形で抜けるのは、立て替えと精算のまわりです。精算は家の外にお金が出る出来事ではないので、支出として書くと合計が水増しされます。家の中でお金が動いただけの行は、支出でも収入でもない扱いに寄せておくほうが、年間の数字が素直になります。
折衷の形で抜けるのは、境界のあいまいな支出です。子どもの習い事は家の費用か、片方が言い出したから片方の負担か。片方の親への贈り物はどちらか。ここに決まりがないと、毎回その場の空気で決まり、決まり方が年によって変わるので、年間の比較ができなくなります。決めておくこと自体が価値で、どちらに寄せるかはあとから変えられます。
口座振替をどこに寄せるか
見落とされがちですが、記録の手間を実際に左右するのは口座振替の置き場所です。
家賃、電気、ガス、水道、通信、保険、サブスクの年会費。これらを一つの口座と一枚のカードにまとめておくと、固定費の全体像が明細一枚で見えるようになります。逆に、二人の口座とカードに散っていると、年に一度の棚卸しのたびに四か所を開くことになり、たいてい途中でやめます。
まとめる先は共同口座でも、片方の口座でも構いません。どこか一つに寄っていることのほうが重要です。この作業は一度やれば数年もつので、家計の構造を変えるときについでに済ませておくと、あとが軽くなります。
途中で変えてもいい
結婚した年に決めた形が、子どもが生まれたあとも最適である理由はありません。片方が働き方を変えたり、収入の構成が変わったりすれば、無理のない形も変わります。
変えるときに一つだけ気をつけると楽なのは、切り替えの日を月初か締め日に合わせることです。月の途中で口座を替えると、その月だけ二つの構造が混ざった帳簿ができて、あとから読めなくなります。読めない月が一つあること自体は大きな問題ではありませんが、来年その月と比べようとしたときに困ります。
そして、切り替えの前後で何件か記録が飛ぶのは普通のことです。飛んだ分を埋めることに時間を使うより、新しい構造で来月から素直に書けるほうが、年で見たときの帳簿の質は上がります。
よくある質問
共同口座と夫婦別財布、どちらが家計簿をつけやすいですか。
記録の手間だけで言えば、支払いが一つの口座とカードに集まっている形がいちばん軽いです。明細が一本になるので照合も一度で済みます。別財布のままだと立て替えと精算が発生し、精算をどう書くかという問題が増えます。ただし裁量の残らない形が続かない家庭もあるので、生活費だけを共同にする折衷が実際には多く選ばれています。
生活費として毎月いくら入れればいいですか。
金額はそれぞれの家庭で違うので一般論は言えませんが、決め方には順番があります。二、三か月ぶんの実績が出るまでは多めに入れておいて、実績が出てから調整するほうが安定します。入れる額が足りないと、月の後半で誰かが自分の財布から出すことになり、その分が帳簿に載らないまま生活費が実際より小さく見えます。
立て替えて後で精算した分は、支出として記録しますか。
家の外にお金が出た時点で一度だけ支出として書き、精算そのものは支出にも収入にもしない扱いに寄せると、年間の合計が素直になります。精算を支出として書くと、同じお金が二度出ていったように見えます。どちらのやり方を選ぶかより、二人で同じやり方に統一することのほうが効きます。
個人の買い物まで家計簿に入れるべきですか。
共同の口座から出たものだけを家の帳簿に入れて、各自の財布から出たものは対象外にする、という線の引き方が扱いやすい。境界が口座という物理的なもので引かれているので、迷う余地がありません。個人の支出を全部見えるようにする形は、透明性は高いぶん、続けるのに合意が要ります。
途中で家計の形を変えても大丈夫ですか。
大丈夫です。切り替えの日を月初かカードの締め日に合わせておくと、二つの構造が一つの月に混ざらずに済みます。切り替えの前後で数件の記録が飛ぶのはよくあることで、それを埋めるより、新しい形で来月から素直に書けることのほうが年単位では効きます。
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