旅行中の支出を、あとで月の数字を壊さずに記録する
旅先は家計簿がいちばん壊れる場所です。複数の通貨、誰か一人がまとめて払う、また現金、そして事務作業への意欲がゼロ。行く前に決めておくことと、帰ってからの精算の扱い。
一年ぶん几帳面につけてきた家計簿が、たいてい最初に途切れるのは旅行の週です。理由を並べると、なるほどと思えます。通貨が違う。誰か一人がみんなのぶんをまとめて払っている。現金の比率が跳ね上がる。そして何より、旅先で事務作業をしたい人はいません。
そのうえ、被害は旅行の一週間で終わりません。旅行の支出が月の帳簿にそのまま混ざると、その月の費目別の数字は誰にも読めなくなります。八月の食費が十二万円だったとして、そのうちいくらが旅先の外食だったのかが分からないなら、その数字は来月の判断に一切使えません。一週間の旅行が、一か月ぶんの記録の比較可能性を静かに壊すわけです。
対処は、旅先での頑張りではなく、行く前の設計です。
行く前に決める:一行か、別勘定か
最初の分岐がここです。
年間予算の一行として扱う
旅行は年に一度か二度の不定期支出だと割り切って、年間で積み立て、旅先では細かく記録しない。帰ってきてから、合計を一件、あるいは交通費・宿・現地費用の三件くらいで記録して終わり。
手間が最小で、家計簿の連続性も守られます。旅行が年に一回で、金額が読めていて、内訳を知る必要がない家庭には、これがいちばん合理的です。
独立した小さな予算として追う
旅行そのものに予算を置いて、費目を分けて記録する。宿、交通、食事、入場料、土産、その他。旅行のあいだだけ、小さな独立した家計を回すイメージです。
手間は増えますが、次回の見積もりが正確になります。旅行が年に何回もある家庭、旅行の費用が読めていない家庭、複数の世帯で一緒に行く家庭には、こちらが向きます。
どちらを選ぶかは、帰ってから「この旅はいくらだったか」だけ知りたいのか、「何にいくらかかったか」まで知りたいのかで決まります。決めずに出発すると、たいてい前半だけ細かく記録して後半で崩壊する、という最悪の形になります。
払う人を一人に決める
旅行中の記録が破綻する最大の原因は、食事のたびに割り勘の計算をすることです。四人で夕食を食べて、一人が払って、あとで三人が送金して、それを全員が記録する。一日三回これをやれば、二日でやめます。
実務的な答えは決まっています。旅のあいだ、共同の支出はできるだけ一人がまとめて払う。その人を「記録係」と決めて、その人だけが記録する。精算は帰ってから一度だけ。
利点は三つあります。記録が一人ぶんで済む。共同の支出の合計が自動的に正確になる。そして、食事のたびにお金の計算をしなくて済むので、旅そのものが快適になります。
注意点は、立て替えている人の負担が一時的に大きいことです。金額が大きくなる旅なら、出発前にある程度を渡しておくと無理がありません。それも一件の記録として残しておいてください。
共有帳簿を使っているなら、各記録に誰が使ったかが残るので、帰ってからの精算に必要な数字はそのまま出てきます。Fambook は精算のアプリではないので、誰が誰にいくら払うべきかまでは計算しませんが、統計はメンバー別に割れるので、割り算そのものは一分で終わります。難しいのは計算ではなく、数字が何であるかについて全員が同意することです。
通貨は、払った通貨で記録する
海外旅行での基本原則です。円に換算しながら記録しないでください。
理由は二つあります。第一に、レジで換算していると時間がかかり、記録そのものが続きません。第二に、そのとき使ったレートは、あなたが実際に負担したレートではありません。
実際に負担するレートは、決済の経路によって違います。カードの国際ブランドが適用する為替レートに事務手数料が乗ったもの、両替所のレート、ATM での現地通貨引き出しのレートと手数料。さらに、店頭で「日本円で決済しますか」と聞かれて円建てを選ぶと、たいてい不利なレートが適用されます。旅先でスマートフォンの為替アプリが表示するレートは、このどれとも一致しません。
だから素直な運用はこうです。旅のあいだは、現地通貨の金額のまま記録する。メモ欄に通貨名を書く。帰ってきてカードの請求が確定してから、実際に引き落とされた円の総額を出して、そこから逆算した実効レートで一括換算する。
現金で使ったぶんは、両替したときのレートを使えば十分です。ここは厳密さより一貫性が大事で、一つの旅の中で複数のレートを混ぜないことだけ守ってください。
旅行の印をつけておく
これが、冒頭に書いた「月の比較可能性が壊れる」問題への対処です。
方法は何でもかまいませんが、一つに決めて全件に付けてください。
- メモ欄に旅行名を入れる。「沖縄」「札幌」「台北」。あとから検索で全件拾えます。いちばん手軽で、いちばん確実です。
- 費目を「旅行」に統一する。旅先の食事も交通も、全部「旅行」に落とす。内訳は失われますが、月の他の費目は一切汚れません。年間の一行として扱う方式と相性がいい。
- 小分類を旅行用に使う。食費・旅行、交通費・旅行のように。内訳も残り、除外もできます。手間はいちばん多い。
どれを選んでも目的は同じです。半年後にその月を見たとき、「この月の食費が高いのは旅行のせいだ」と一秒で分かること。そして来月の食費の予算を決めるときに、旅行のぶんを外した数字を出せること。
この印がないと、旅行のあった月は永久に外れ値のまま残り、過去の平均を計算するたびに数字を汚し続けます。一週間の作業を怠ったせいで、その後何年も影響が残るという珍しい種類の負債です。
旅先で、実際に入力を続けるには
設計をどれだけ整えても、記録が入っていなければ意味がありません。旅先での入力について、実際に効くことだけを書きます。
- 食事の席で、料理を待っているあいだに入れる。十五秒です。飛行機の中で一週間ぶんを思い出すのに比べたら、比較になりません。
- 費目は雑でいい。旅先で「これは食費か娯楽費か」を考え始めた時点で負けです。迷ったら食事系に落として、メモに何かを書いておく。
- 一日の終わりに、その日使った現金の残りを数えて、記録との差額を一件入れる。旅先は現金の比率が上がるので、この習慣が効きます。
- まとめ役を一人に固定する。全員が記録しようとすると、必ず重複か抜けが出ます。
- 一日抜けたら、その日は諦めて翌日から続ける。旅の途中で穴を埋め始めると、そこで全部終わります。
技術的な前提が一つあります。海外では通信が不安定なことが多い。ローミングを切っている、現地の SIM がまだ入っていない、地下鉄の中、山の上。保存に通信を要求するアプリだと、旅先での記録は成立しません。
Fambook は各記録をまず端末のデータベースに書き、通信が戻ったときにサーバーへ送ります。まだ送れていない件数はホーム画面に出るので、圏外の期間が続いても、何件が保留中かは見えています。そして電波が戻ったとき、サーバーから降りてきた複製が、オフラインで書いた内容を上書きすることはありません。
帰ってきてから
最後の落とし穴が、精算の二重計上です。
状況はこうです。旅行中、Aさんが共同の支出を十二万円立て替えた。帰ってから、Bさんが六万円をAさんに送金した。
ここで、その六万円の送金を支出として記録すると、家計の合計が十八万円になります。実際に外部に出ていったお金は十二万円です。六万円は家庭の中で動いただけで、支出ではありません。
別々の財布で暮らしている二人なら、この送金は各自の記録では意味を持ちますが、共有帳簿では支出に数えるべきではありません。記録するとしても、支出ではなく移動として、あるいはメモだけにしてください。
そして、帰ってから三十分だけ時間を取って、次の四つをやると、その旅は将来の役に立ちます。
- カードの請求が確定したら、現地通貨の記録を実効レートで円に換算する。
- 旅行の合計を出して、来年の同じ旅の見積もりとしてメモに残す。
- 精算の送金を、支出ではなく移動として扱う。
- 旅行の印がついているかを確認する。ついていない記録があれば、いまのうちに付ける。半年後の自分は、絶対に付けません。
そのうえで、来月の予算を立てるときは、旅行の記録を外した数字を使ってください。旅行込みの食費で来月の食費の上限を決めると、その上限は緩すぎて、何の役にも立ちません。旅行は年間の予算に属するものであって、毎月の予算に属するものではないからです。
よくある質問
旅行中も、いつもと同じように費目を分けて記録すべきですか。
出発前に決めてください。年に一度の旅行で内訳を知る必要がないなら、帰ってから合計を数件記録するだけで十分です。旅行が多い、あるいは費用が読めていない家庭は、旅行だけの小さな予算として費目を分ける価値があります。決めずに出ると、前半だけ細かく記録して後半で崩壊します。
外貨での支払いは、どう記録すればいいですか。
払った通貨のまま記録して、メモに通貨名を書いてください。レジで円に換算しようとすると時間がかかって記録が続きませんし、そのとき見たレートは実際に負担するレートとも違います。カードの請求が確定してから、実際に引き落とされた円の総額から逆算した実効レートで、一括で換算するのが素直です。
割り勘は毎回記録すべきですか。
やめたほうがいいです。共同の支出は一人がまとめて払い、その人だけが記録して、精算は帰ってから一度だけ。食事のたびに計算していると二日でやめます。共有帳簿なら各記録に誰が使ったかが残るので、帰ってからの割り算に必要な数字はそのまま出てきます。
帰ってからの精算の送金は、支出として記録しますか。
しないでください。二重計上になります。十二万円を立て替えて六万円を送金すると、家計の合計が十八万円になりますが、実際に外へ出たのは十二万円です。送金は家庭の中でお金が動いただけなので、支出ではなく移動として扱うか、メモに残すだけにしてください。
旅行の支出が、翌月の予算を狂わせます。
旅行の記録全部に印をつけておいてください。メモ欄に旅行名を書くのがいちばん確実で、あとから検索で拾えます。来月の食費の上限を決めるときは、旅行を除いた数字を使うこと。旅行は年間の予算に属するもので、毎月の予算に属するものではありません。
海外で通信が使えないときは、記録できますか。
アプリによります。保存に通信を要求するものは、ローミングを切っている旅先ではほぼ使えません。Fambook は各記録をまず端末に書いてから、通信が戻ったときに送ります。未送信の件数はホーム画面に出ますし、戻ってきた複製がオフラインで書いた内容を上書きすることもありません。
ひと月ためしてみる
Fambook は家族にひとつの共有帳簿を渡します。誰でも数秒で一件書けて、どの記録にも誰が使ったかが残り、ひと月の合計が二か所ではなく一か所にまとまります。圏外でも記録でき、あとから同期します。記録、カテゴリ、予算、統計、CSV の入出力、同期、二人での共有は無料。課金で買えるのは「入力の手間が減ること」だけです。