記録より予算のほうが、はるかに難しい理由
記録は起きたことの説明で、予算は予測と約束です。まったく別の仕事なのに、同じ機能として並べられている。予測が外れる仕組みと、約束が守られなくなる仕組みを分けて見ます。
家計簿アプリは、記録と予算をだいたい同じ棚に並べます。片方は入力する画面、もう片方は数字を決める画面。操作の手数もほとんど変わりません。だから多くの人は、記録が続けば予算も続くだろうと考えます。
ところが実際には、記録が三か月続いている家庭でも、予算は一か月で放置されている。これは意志の問題ではなく、二つがまったく別の作業だからです。
記録は、起きたことの描写です。過去形で、検証可能で、正しいか間違っているかがはっきりしている。三千二百円使ったなら、三千二百円と書く。認知的には、ほとんど何も要求されません。
予算は、未来の予測に、自分への約束を足したものです。「来月の食費は六万円で収まるはずだ」という予測と、「六万円で収める」という約束。予測は当たるか外れるかで、約束は守るか破るかです。どちらも、記録とは違う筋肉を使います。
そして予算は、この二つのどちらからも壊れます。分けて見ていきます。
予測が外れる三つの仕組み
一。不定期な支出が、そこにいない
毎月の予算は、毎月起きることしか見ていません。ところが家計の支出のうちかなりの部分は、年に一度か二度しか来ない。年払いの保険料、車検、帰省、入学、給湯器。
これを外して立てた月の予算は、十一か月ほど「だいたい当たっている」ように見えて、残りの一か月で完全に崩壊します。そして崩壊した月に人は「今月は特別だった」と考え、予算そのものは見直されません。翌年また同じことが起きます。この問題は独立して扱う価値があるので、不定期支出のページで詳しく書きました。
二。月は、多くの費用にとって自然な単位ではない
給与が月払いで、家賃が月払いなので、家計を月で切るのは自然に感じます。しかし支出の側にはそれぞれのリズムがあります。
食費は週のリズムです。五週ある月と四週の月では、それだけで二割違う。光熱費は季節のリズムで、日本なら一月と八月と、その間の谷が二回。子どもに関する支出は学期のリズムで動きます。
これを全部「月」に押し込むと、規律とはまったく関係のない理由で数字が上下します。八月の食費が高いのは気の緩みではなく、子どもが給食を食べていないからです。予算がその原因を区別できないと、達成も未達も、どちらも情報を持ちません。
三。平均が分散を隠す
これがいちばん見落とされます。過去六か月の食費の平均が六万二千円だったとします。予算を六万二千円に置く。妥当に見えます。
ところが内訳を見ると、五万四千、五万八千、六万、六万一千、六万五千、七万四千だったりする。平均は六万二千で正しい。しかし六か月のうち二か月は超えています。つまり、この予算は最初から三分の一の確率で破れるように設計されています。
平均で予算を組むと、定義上、半分近い月で超過します。そして超過が常態になった予算は、次の節の問題に直結します。
約束が守られなくなる三つの仕組み
一。毎週超えている上限は、もう情報ではない
予算の値打ちは、超えたときに何かを伝えることにあります。今月は普段と違う、と。
ところが毎週三つの費目で超過していると、その通知は何も伝えません。伝えているのは「あなたは失敗しています」という感想だけで、しかも毎日繰り返される。そういう画面を人は開き続けません。まちがっていたのは予算のほうなのに、消されるのはアプリです。
予算が信号として機能するには、ふだんは鳴らないことが必要です。常時鳴っている警報は、警報ではなく背景音です。
二。超えたときに何をするかが、どこにも書いていない
予算を立てるとき、人は上限の金額だけを決めます。超過したときの手順は決めません。
だから月の二十日に食費の枠を使い切ったとき、そこから先の十日をどうするかについて、何の合意もない状態になります。食べないわけにはいかないので、当然そのまま使う。使えば、その上限は「守らなくてもいいもの」だと学習されます。一度そう学習すると、翌月の同じ上限も同じ扱いになります。
対処は事前に決めておくことです。超えたら翌月の枠から前借りするのか。別の費目から回すのか。その月は超過を受け入れて記録だけ残すのか。どれでもいいのですが、決まっていないことだけが問題です。決まっていない上限は、上限ではなく感想です。
三。一人が、二人ぶんの行動に上限を課している
家計の予算は、たいてい家計に関心のある側が一人で決めます。そしてその上限は、二人ぶんの行動を制約します。
この構図は、それ自体が壊れる仕組みです。決めた側にとっては計画ですが、決めていない側にとっては、相談なしに課された制限です。守られない確率が高いのは当然ですし、守られなかったときに決めた側が指摘すると、そこから先は家計の話ではなくなります。
予算を二人で使いたいなら、二人で決めるしかありません。それも「いくらにするか」ではなく、まず「どの費目に上限を置くか」から一緒に決めてください。置く場所に合意していれば、金額の議論は成立します。置く場所に合意していなければ、金額をいくらにしても同じことです。
生き残る予算の条件
- 実績から出す。記憶や理想からではなく、実際に記録した一か月か二か月から。当て推量の予算は、表計算の書式をつけた願望です。
- 費目は一つ。十一個ではありません。大きくて、なおかつ本当に動かせるものを一つ選ぶ。多くの家庭では食費か外食です。固定費に上限を置いても意味がありません。今月は変えられないからです。
- 実額のわずかに下に置く。五から一割下なら届く可能性があります。三割下は二週目に外れる目標で、二週目に外れることこそ、予算が捨てられる筋道です。
- 超えたときの手順を先に決める。前借りか、融通か、受け入れて記録するか。
- 三か月は触らない。単月の上下はただの揺らぎです。
一つの費目だけというのが不十分に感じるのは分かります。しかし十一個の上限を持つ家庭は、たいてい二か月後に上限を一つも持っていません。一つの上限を六か月守れた家庭は、二つ目を足せます。順序が逆だと、どちらも残りません。
「上限」と「計画」は別のもの
家計の文脈で予算と呼ばれているものには、性質の違う二つが混ざっています。
上限は、監視する線です。食費六万円。超えたかどうかを見るためのもので、お金そのものはまだ手元にあり、他のことにも使えます。実質的には計測器です。
計画は、すでに割り当てられたお金です。年払いの保険料のために毎月積んでいる三万円は、上限ではありません。用途が決まっていて、他に回してはいけないお金です。
この二つを同じ「予算」という言葉で扱うと、混乱します。上限は超えても構いません——情報を得ただけです。計画のお金を他に使うのは、来月の自分から借りたということで、まったく別の行為です。
自分がどちらを立てているのかを言葉にできると、予算に対する感情がだいぶ整理されます。食費の上限を超えたことに罪悪感を持つ必要はありません。積立に手をつけたなら、それは記録しておく価値のある出来事です。
見るべきなのは、残額ではなく速さ
予算画面で人が見るのは、たいてい残額です。「あと一万二千円」。これは実は、あまり有用な数字ではありません。月のどこにいるかが分からないからです。
有用なのは速さの比です。月の四割が過ぎた時点で、枠の六割を使っていれば、このままだと超えます。月の八割が過ぎて枠の六割なら、余裕があります。同じ残額でも、意味が正反対です。
Fambook のカテゴリ予算は月ごとで、無料の範囲に入っています。計算されるのは残額だけでなく、期間のどれだけが経過したか、残りの日数に対する一日あたりの使える額、そして実際の支出の速さを、均等に使った場合の速さと比べた比率です。上限に近づいたとき、超えたときに、状態が変わります。
そして、その数字が見えるのは支出を入力している最中です。読み返すのは月末でもいいのですが、行動を変えられる唯一の瞬間は、いま金額を打ち込んでいるそこだからです。月末に見る予算は、判決であって予算ではありません。
よくある質問
予算を立てる前に、どれくらい記録すべきですか。
最低一か月、できれば二か月です。それも、都合の悪い月を含めて。誕生日も来客も車の修理もない月から出した数字は、その月しか通用しません。記録した実績がないうちに立てた予算は、書式のついた願望です。
費目ごとの予算は、いくつまで立てていいですか。
まずは一つです。大きくて、なおかつ本当に動かせるもの。多くの家庭では食費か外食です。固定費に上限を置いても今月は変えられないので意味がありません。一つの上限を六か月守れたら、二つ目を足してください。最初から十一個立てた家庭は、二か月後に一つも持っていないことが多い。
過去の平均を予算にするのは正しいですか。
正しくありません。平均で置くと、定義上、半分近い月で超過します。過去六か月の内訳を見て、上位から二番目くらいの月ではなく、中央より少し低いあたり——実額のわずかに下——に置くほうが、信号として機能します。狙いは達成しやすさではなく、超えたときに意味があることです。
予算を超えてしまったら、翌月を厳しくすべきですか。
おすすめしません。超過の翌月を不自然に厳しくすると、その厳しい月も外れ、制限と反動の循環になり、最後は全部やめることになります。上限はそのままにして、何が起きたかを一行書き添えて続けてください。見るべきは四半期の平均です。
残額を見ているのに、なぜ月末に超えているのですか。
残額だけでは、月のどこにいるかが分からないからです。月の四割が過ぎた時点で枠の六割を使っていれば、残額がいくらであろうと、このままでは超えます。見るべきは残額ではなく、実際の支出の速さと、均等に使った場合の速さの比です。
パートナーが予算を守りません。
その予算を一人で決めたのなら、相手にとってはそれは計画ではなく、相談なしに課された制限です。金額の前に、どの費目に上限を置くかから一緒に決めてください。置く場所に合意していれば金額の議論は成立します。合意していなければ、金額をいくらにしても同じことです。
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